Friday, October 05, 2007

昔のレポート

アプリケーションのために過去の資料を整理してたら、大学時代のレポートが色々でてきた。これもその一つ。
日付は、2004年1月27日。

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 今、”ダンス”と”演劇”は互いに近付いている。身体を用いて表現をするというただ1つの共通点を軸に、役者が”ダンス”について、ダンサーが”演劇”について学んだり、或いは演出に相互の影響を見ることが出来る。一般的な解釈を考えるならば、”演劇”は言語表現を、”ダンス”は身体によるムーヴメントを軸として展開するものと認識されているだろう。しかし、例えばピナ・バウシュが、ヴッパタールで発表した作品群やダムタイプのパフォーマンスはそこには収まらない衝撃を与えてきたことは記憶に新しい。ただそれは全て20世紀の出来事である(別にキリスト教に傾斜することはないが)。今次の100年へと入った中で僕等はそこから先について考えていかねばならないだろう。
 21世紀の最も重要なモチーフはパーソナリティーだろう。それは高度情報化社会の実現によるものに他ならない。TVなどのマスメディアの普及やコンビニ等の地方への急激な進出、インターネット網の爆発的な拡大、そして何より、携帯(個人)端末の獲得。今までは隠されていた、あるいは口伝えにあった情報が、ダイレクトに個人へと流れてくる時代。それは、今まで当然とあると思っていた”性”だとか、”家族”、”国家”といった思想が揺らぐ時代である。(そして重要なことは、20世紀と違い、こうした事態が、静かにやってくるということである。)
 そんな中、最もリアリティーを持つことが出来るのが自分自身の”身体”である。病気になる、ケガをする、或いは睡眠障害や鬱などの精神的な不調、そうした時、僕等は自らの意にならない身体を直に認識し、それが”ここに在る”ことに気付く。それはデカルトの「我思う故に我有り」といった理性の範囲にある思想より、一層強烈なものだ。
 20世紀、”演劇”と”ダンス”は相互に行き来したが、それはどちらかというと振付家・演出家主導のものであった。斬新な「見せ方」として、他の世界の一部を流入させる。そうすることによって、それぞれの世界に慣れた人々に刺激を提供することが出来た。そのためにダンサーや役者は、互いのメソッドについて知識や経験を交換してきたのだ(演出家や振付家の要求を満たすため)。しかし、恒常的に刺激的な情報が直接個人に訪れる今、こうしたことがインパクトを与えることはもう出来ないだろう。観客を飛び上がらせ、自らを省み、社会・世界を省みさせる(少なくとも僕はこれが芸術の役割であると考えている)には、彼等にとってのリアリティー、それぞれの身体を揺れ動かすものでなくてはならないだろう。
 土方巽は”東北”に日本人のアイデンティティーを見出し、これを具現化することで肉体の復興を目指した。しかし、今求めるは”東北”といった彼の地ではなく、今”ここに在る”自らの身体が持つ固有の身体的記憶なのである(それは「日常的な」といった様な形容詞のつく陳腐なものであってはならない)。それは混沌が当然として立ち現れるだろう。”演劇”や”ダンス”のメソッドに収まらないものだけでなく、自らが学んできたあらゆるメソッド(もしかしたら見た・聞いただけの真似さえも)さえも肯定することになるからだ。
 こうした身体を演出家、振付家が牽引することは不可能だ。パーソナリティーの開示は、それぞれの歴史の陰部にさえ触れることになるからだ。演出家や振付家が役者やダンサーのそうした部分を蹂躙、懐柔し、意のままにするようなことは出来ない。彼等に出来ることはもはや、観客のためにこうした出来事を少しでも分かり易くナヴィゲートすることだけだ。
 ステージの上で必死に自らの記憶を辿っていく人々の姿を見て、観客は気付くだろう。この多様性が自らの身体にもあることを。それは自己の可能性を感ずることだけに留まらない。同時に、自らの隣りに座っているその人もまた、同様の多様性があることを想像できるからだ。つまり、自己のリアリティー(身体)を基点に他者のリアリティーをイメージするという行為が起こるのだ。
 9.11以後、一連のアフガン・イラク等に関連した出来事を見ていて、僕は現代社会においては、「無理解」を前提として生きていかねばならないことが明示的になったと感じている。そのためにはどれだけ他者のことをイメージする事が出来るか。これがお互いを尊重して生きていく唯一の可能性に思えてならない。こうした中で”演劇”や”ダンス”はそうしたジャンルのメソッドを基点とした「見せ方」を軸にするのではなく、役者やダンサーの身体に根差したパフォーマンスこそ、求められていくのだと、僕は考える。
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僕の中で今確かにあるスペクタクルに対する距離感をすこしずつ醸成されてきたことがわかる。

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